大野義光 大野丁子

 

TALK - 02 “ 刀工達のビジョン ”

司会 だいぶ脱線しましたので話を材料の件に戻しますけど、多様性や可能性という広がりを考えれば、玉鋼といった原材料まで研究して詰めるのが本来の写の姿だと思うのですが。

 

大野 そうそう、やれば何かが出てくる、何かが判るんですよ。写の話と同じで、やってみないと判らない。そのやってみるという最大の目的であり手段が写なんです!!
地鉄だって実際に叩いてみないとどういう地鉄になるのか判らない。最初から目的無しではやりようがない。

 

中原 んー、だから“目標を持て”というのが写なんですよ。
これは失礼な話かもしれないけど、大野刀匠がいくら山鳥毛写をやろうが本歌にはなれない。

 

大野 その通りです。

 

中原 でも、評価としては別の話ですよね。写をやることによって、技術が上がり、その他に自分独特の感性なり個性というものが出来上がるわけですよ。要は自分の看板みたいなものを作れるわけです。

 

大野 それでいいんですよ!!

 

中原 山鳥毛の本歌出現以来、江戸期も含めて今までそれに近い刀を作った刀工はほぼいない・・・大野刀匠の再現したものが唯一の山鳥毛写かもしれない。この結果を評価しないでどうするんですかと言いたい。

 

司会 いやいや、ちゃんと評価されていますよ。マーケットは正直です。

 

大野 新々刀期の固山はあったかな。固山の作に本歌を見て作ったと思われる刀があります。

 

司会 面白い話、将来、大野刀匠の山鳥毛写の写が出てくるでしょうね。

 

大野 可能性はありますね。

 

中原 いや、考え方としてはそうでなければいけない。現に写に近いものがもう出ている。・・・意図的な偽物の形としてですがね。
本歌があって初めて写が存在するわけで、古い刀を新しい刀工は写せるが、その逆はあり得ない・・・そんな当り前のことが概念的に解っていない気がする。大野刀匠の山鳥毛写を、また誰かが写す・・・これが文化の重層化です。

 

司会 写というのは作刀の基本であることは明白ですが、最近の若手刀工を見て大野刀匠はどう思います。

 

大野 今の若い人達の写物の出品作品が減ってきている気がします。この傾向に少し危機感を感じます。

 

中原 代わりにオリジナリティのある作を出せるかといったらそうはいかない。出せないでしょうし、出せるわけがない。古来、日本刀の総枠で姿、刃文、デザイン的要素は出尽くしている。

 

大野 もう、〇〇の写だから、なんていうこと自体ナンセンスです。見方によりますが、直刃にしたって全部写だとも言えます。そういう意味では、寒山先生の指導は結果的には間違ってはいなかったと思います。

寒山先生が生きている時にO先生とH先生との対談で、どちらかが「写せ、写せというなら、泰龍斎宗寛ならそっくりに写せるじゃないですか?」と言ったら、「そうじゃないんだよ、いいところを学ぶんだよ。」「名刀のいいところを学びなさい。それで写を奨励しているんだよ。」と言われた。

 

中原 そうなんです。形、姿、刃文を忠実に写したらそれで終りじゃないんです。その先にまだあるんですよ。その先にあるものを、解釈、理解しなきゃいけない。それを煮つめないと完全な写にはならない。

だって泰龍斎宗寛は、本歌を写した際、目指した何かがあったはずです。本歌に隠された意義を探すことを続けなければ写の意義はない。今は、“写しました”という結果だけで終わっている。そう考えなければ、大野刀匠の言う通り、直刃なんてみんな写だよ。

 

司会 写をCOPYと同義に思っているかもしれませんね。

 

中原 今は亡き杉田刀匠が、作品を出し始めた頃、移が出ていた。下位にあっても杉田刀匠の作は特別光っていた。

評価する人は、基本的に刀を好きじゃないといけない・・・結局、評価する人達の面々に注文をつけるようだけど、研究家、刀匠、研師といった専門的な人達も入れるべきだと思うんだよね。刀を直に触って本質を追究していく人達を。

 

司会 刀匠として目指す頂点は、やはり無鑑査という立場ですか。無鑑査になったらイメージも処遇も違うでしょうね。とはいえ、無鑑査だから売れるとは限らないと思いますが。

 

中原 昭和48〜9年、50年あたりまで刀匠は何を目指したか・・・確かにそれは無鑑査になることだった。その先は人間国宝だった。ところがその後、無鑑査になったとたんに刀剣ブームが終り景気も悪くなって、おまけに無鑑査だから元値が高くて売れない、という悪循環に陥った。

 

大野 基本的に若い人が上を目指してくれるのはいいのだけれど、無鑑査で満足しちゃいけません。技術的な面、オリジナリティ、何でもいいんだけど常に目指すもの、向上する気持を持ち続けることこそが重要なんですよ。

 

中原 じゃあ今更だけど、大野刀匠のこれから目標とする取り組みは? 司会 やっぱり国外へ向けて作品を紹介して、世界の大野を確立することですよね、大野刀匠。

 

大野 ・・・確かに私もそう思います。すでに世界にデビューはしているけど、書籍だけで現物は出していませんからね。

 

中原 おそらく、そういった取り組みは評価されるだろうし、現にされつつある。そういう例を若い人が見て「そうか、国内だけではなく国の外でも評価されるんだ」と理解してくれたらいい。それが大野刀匠に課せられた役割だとも言えるでしょうね。そういった形で、若手の目標になってほしいですね!!

 

司会 同感です。大野刀匠にはぜひ取り組んでほしいと思います。反面、そういう事を示せる刀匠が少ないことが残念です。本当は、そういった取り組みへの支援なりを協会や業界が担ってくれることが理想なんですけどね。

 

中原 全国の研究会に行くと、大野刀匠の作、特に山鳥毛写は有名ですけど見たことがないという人がほとんどです。目に触れる機会が殆んどないのです。それだって本来なら、組織がもっとイベントなりを企画して、社会の中での価値や存在を知らしめるべきです。へたすりゃ、大野刀匠の丁子刃と山鳥毛写の区別ができない。理由は簡単です。前述のように山鳥毛写は一文字写よりもっと見たことがないから。本数もないし。だからちょっとお願いしますが、山鳥毛写をもっと作ってください。

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