於備前国大野義光作之 平成十六年春
太刀 / 刃長:79.5 cm 反り:3.1 cm 重ね:0.92 cm |
平成16年度新作刀展出品刀 「山鳥毛」写 |
体配
本造、庵棟、中心は生で孔二つ。鑢目は勝手下がり。表裏に棒樋を掻通し。
地肌
小板目よく詰み杢目心が交じる精美。刃寄りは小板目が少し流れ心となり、焼元から移りが鮮明に出る。
刃文
約幅広く匂本位で匂口締まりごころに刃縁が冴える。鎺元上から切先まで重花丁字が激しく所作する。深く柔らかな足・葉が盛んに働き、金筋・砂流風の所作が刃中に頻りに現われる。
鋩子
重花丁字がが乱れ込み、浅く返る。
備考
平成十六年度新作刀展の出品刀で、大野刀匠が円熟期に入った時期の山鳥毛写です。山鳥毛写を完成してから約十数年、その培われた術を余すところなくつぎ込んだと言える一振でしょうか。美しいです。大野刀匠の山鳥毛写の中では落ち着きがある作と言えば語弊でしょうか。私見ながら、艶やかでしっとりとした印象を受けるのです。深くやさしい大野丁子が乱舞し、華やかな重花丁子となるその様は、元先まで拡がる光の輝く情景となって見る者を誘うには十分すぎます。同じ写しながら一振一振様々な表情と異なる印象をみせる山鳥毛写にあって、本刀には大人の色気を感じます。
働もちょっと異なり、足・葉といった刃寄り側に金筋・砂流風の所作が総体にわたってあらわれ、それもまた本刀の見所の一つかもしれません。重花丁子に金筋・砂流は相反する所作に思えますが、それらが同居する様は自然で当り前のように存在しています。地金の鍛えがそのまま出たのでしょうか。これについては刀匠自身に確認が必要かもしれません。それと重花丁字の刃文ですが、ほんの僅かに逆丁子ぎみになっていると感じるのは錯覚でしょうか。反が強いのでそう見えるのかもしれませんが、この雰囲気が控えめな落着きと色気を出しているのかもしれません。見る人に拠って印象は異なると思いますのでその点はあしからず。総評として、やはり上手です。そして魅了されます。所作がどうとか働がどうとか、そんな評は意味の持たない戯言になってしまう・・・大野刀匠の山鳥毛写はそんな一振なんだと思い知らされます。